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200708191705
CATEGORY[小説]

Useless possession (宝の持ち腐れ)   ―『Master!!』―  part1

繁華街は普段どおり混み合っていた。
歩道も車道もその点はあまり変わらない。
ここブライトノルアはさほど広くはない町であるが表通りはいつもこの状態だ。
都市部などのように天高くそびえ立つ摩天楼はないにしても活気のあるほうだろう。
さびれ具合が粋なカフェテリアやシャレたブティック店などが軒を連ねている。
それぞれの目的に動く人類をショーウィンドウのマネキン達が無表情に見つめている。
なぜ人類は途絶えることなく道を進むのか?
そんなことを考えるほどキティ・ガルディバルは詩人家ではない。
それよりも今は文句が言いたかった。
「情報のすべてを外部に漏らさない事を約そ…」
「ツルギ、しつこい。」
話を遮り、運転席の横からキティはふくれっ面で抗議してやった。
青と緑のオッドアイを持つ顔はかなり不機嫌そうだ。
種族的には『虎』とはいえ、持ち前のベビーフェイスと小柄な体型のためか『猫』にしか見えない。
噛み付きはしないが、これ以上言うと罵詈雑言が飛び交ってきそうだ。
「職務だ。許せ…」
運転席にいるツルギ・カミザネは抑揚の無い口調で答えた。
さきほど仕事を終えた依頼者のオフィスでも、彼以外の人物に同じ言葉を聞かされた。
彼がこの言葉を口にしたのはこれだけだが、さすがに何度も言われると耳障りにしか聞こえない。
言葉を中断されたとはいえ、ミラー越しに見えるアフガンハウンドの表情は変わらなかった。
長髪に近い飾り毛はさして手入れはしていないが、淡いブラウンを持った毛皮はとても毛並みがいい。
しかし整った顔立ちとはいえ、目つきの鋭さと固い口調のためかどこか近寄り難い雰囲気を持っていた。
彼の職業柄では役に立つが、一般的に言うならば『話し相手にはしたくない』人物だ。
その雰囲気も彼女にとっては気にならない。長年友人関係を保ってきた結果である。
ツルギの一言に出鼻を挫かれたのか、キティは後部座席に腰を落ち着けた。
文句を言いたいが、これ以上続けても意味が無い。
キティは引き際を知らないほど、無知ではなかった。
胸の内でくすぶった感情を抑えると、餞別にもらったジュース缶を器用に開ける。
「別にツルギのせいじゃないよ。ただあそこで会う人会う人に言われてたから聞き飽きただけ。」
口に含むと一気に中身を喉に流し込んだ。
口の中いっぱいに甘酸っぱいオレンジの味が広がる。
コーラなどの炭酸よりも仕事後は甘い果実物の方が喉は欲しているようだ。
3分の2ほど流し込み、一息ついた。
「ルールは守るよ。仕事上での信用は第一ってね。」
手慰みするかのように缶を手の内で転がした。
キティの表立って言えない職業柄ではなおの事、その一言に対しての重みは一般人とはちがう。
しかし彼女の表情は言葉と違って、明るかった。
それが彼女の性格である事も、ツルギは承知している。
「それにね…脳みそってのはいらない情報詰め込めるほど余裕が無いの。断片はあっても、ほとんど忘れちゃうよ。」
キティはミラーに映った友人に目を向けた。
濃いブラウンの瞳は当然ながら車外へと向けられている。
「これがボクの哲学。おわかり?」
キティのミラー越しのウインクにツルギの目も一瞬だけゆるんだ。
ツルギも笑みをうかべられないわけではない。
彼の珍しい表情を垣間見ながら、最後の一滴を堪能した。
「ICPOも相変わらずだね。皆愛想はいいんだけど、なんかこうお堅いって言うか…」
「特務機関はそういうものだ…」
キティはさっきまでいたICPO支部の所属職員の面構えを頭に浮かべた。
愛想はいい。
礼儀はある。
一日中スーツ。
コメディーショーは見ていない。
10人中8人の職員はその言葉に該当しそうな連中だった。
「息がつまっちゃうよ。ボクは向いてないや…」
キティも仕事上でのお得意様ではあるが、私生活にまで関わるつもりはない。
ふと運転席のツルギを見つめた。
彼の左手の薬指にはプラチナのリングが光っている。
光沢具合から見て、まだ新しい。
「ツルギは新婚旅行、行かないの?結婚式終わったらハネムーンってのが新婚さんの行事でしょ?」
「まだ予定はない。」
ツルギは短めに返答した。
彼との会話ではいつものことだ。
「この前挙げたばっかりで、それで仕事ってのもな~つまんないな~。」
キティは自分の事のように腑に落ちない様子だった。
自分もその式に出席していたためだろう。新郎は別として、新婦の幸せそうな顔が頭をよぎる。
「レイナ行きたがってると思うよ~。こうどっかのリゾート地でイチャイチャとさ~。」
「アイツはヨーロッパの古都が希望だ…」
「う~~ん、レイナらしいね。」
ツルギの生涯のパートナーの性格を思い出した。
ロマンティックな妄想家の新婚旅行先としてはうってつけの場所だろう。
しかしそのロマンティックな城や町並にこの男が合うのだろうか。
それよりも愛妻といちゃつくアフガンハウンドが想像できない。
キティの想像力豊かな脳みそをフル回転させてもその形が浮かび上がらなかった。
ロマンスあるれる古都も、ハネムーンのお約束ともいうべきオーシャンビューのリゾート地もこの男には無縁の地なのだろう。
やはりこの男にはお堅い特務機関の方があっているようだ。
しかしキティにも画期的なアイデアはあった。
「そうだ!!!こんなのどう?『世界の警察署巡り』!!!」
「仕事で行く…」
キティの画期的アイデアは、ツルギの淡々とした言葉で消えてしまった。
会話どころか盛り上がった空気でさえ、萎えさせてしまうのは彼の得意技の一つである。
長年の友人関係を保っているものの、会話がなりたたないのは彼女の性格的にかなり辛い。
「ノリ悪いね。あいかわらず…」
キティは軽くため息つきながら、車外に映える町並みを見つめていた。



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コレクトマニアより第一話『Useless possession』の一幕『Master!!』をお送りいたしました。
『Master!!』の続きはまた後ほど…。
一幕全部執筆でき次第、HPに加筆したものを載せていく予定であります。

しかし…暑い…(ーー;)

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